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ゾッウッゾッ

・印刷機がゾッウッゾッと出してゆく空に根を張るごとき梅の木
(藪内亮輔「海蛇と珊瑚」 2011年角川短歌賞次席作品)


「海蛇と珊瑚」の一聯からは紹介したい歌がたくさんあるが、この一首を選んだ。

藪内さんの作品は描写の丁寧さ、確かさ、その背景にある観念の分厚さが魅力である。描写の丁寧さは冒頭の数首で力強く提示されている。

・月の下に馬頭琴弾く人の絵をめくりぬ空の部分に触れて
・明け烏ふはりと空を降り来たり黒きつばさの裏をさらして

そういう中で垣間見られるユーモアもまた、作者の魅力である。

・数式はあゆむ間にさへ現れてわれを電柱にぶつからせしむ
・くらがりに電話ボックスひとつありすらりと光立ててゐるなり
・コンビニに貰ひし箸についてくるつま楊枝ちさく先尖りゐる

そのふたつが交差するところに、次のような秀歌が生まれる。

・ポケットに冷たく握る硬貨あり百円玉の花は枯れない

紹介歌は丁寧さとは異なるが、ダイナミックでいて緻密な描写が他にはない気がする。ゾッウッゾッは言われてみればなるほど、「空に根を張る」というから根っこの方から印刷されているのであろう。(もしかしたら枝の様子が空に根を張るようであるのかもしれないが、梅の木が逆さに印刷されてゆくダイナミズムとして読みたい。)梅は古木であろう。写真というより水墨画のような重厚さが伝わってくる。

「海蛇と珊瑚」全体としては「死」が主題と読み取るのが自然だろうが、作者としては死を自分に手繰り寄せきれていないように見受けられるのが残念である。少し客観的な立場としての

・おしまひのティッシュペーパー引くときに指は内部の空(うつほ)もひけり

のような歌の方が成功しているように感じる。

最後に作者の好きな蛇の登場する、少し(技巧的に)お洒落な歌を紹介してこの評を終わることにする。

・ときどきに句跨るからこそ歌に蛇(くちなは)がくる花をくはへて

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