NHK短歌2014年7月号ジセダイタンカ

あ随分と久しぶりの更新になってしまいました。一年半ぶりとは!
NHK短歌のテキスト7月号の「ジセダイタンカ」に短歌七首とエッセイを掲載していただきました。発売期間も過ぎたのでこちらにも掲載しておきます。


土木作業員見習(事務職採用)


ボックスカルバート(*)、略してボッカル。動物でないものが浅く地中に潜む
                         *ボックスカルバート=埋設型暗渠水路

ユンボとはパワーショベルのことであるバックホウとも同義のようだ

チェーンソウにおのれをすべてのせてゆく振りかざしたりすることはなく

そんなに前のめりになるなよとφ300(ファイさんびゃく)デリニエーターの円(まろ)きかがやき

玄関の段差なくなり社会の格差なくなり手摺りが付いて坂道(スロープ)になっていた階段

只今陥没調査中です手許には土のう袋がひとつあるだけ

なにかこう文明の利器はないものか角スコで積み下ろす砕石(クラッシャーラン)


丸カッコに入っているのはすべてルビです。
初めての原稿依頼ということで張り切って書いたら、カタカナに漢字のルビはNGで編集部に大変ご迷惑をかけてしまいました。商用誌に作品を載せるっていろいろあるのですね。様々な代替案を検討した結果、アスタリスクをつけて脚注にするということでどうにか掲載していただけました。

作品自体は入社したてで土木部にいた三年前から温めていたものです。現在は全く別の職場にいますが、時間を置いて振り返って、客観的に見つめられるようになって作品になったのだと思います。

ここのところ作品や文章を発表しているのは「うたつかい」に頼りきりになっています。ブログの一首評も再開しなければなあ。

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2012年の採用歌

今年も大きな転換の年になりました。

4月に「夜はぷちぷちケータイ短歌」が終了しました。
心にぽっかり穴が空いてしまうかと思いましたが、
新しい短歌イベントや空き地、空き家、空き瓶を始めとする歌会など、
それを上回るというべき、短歌を通じた交流が広がってゆきました。

年々、予想だにしない出会いに恵まれています。
来年はどのような年になるのでしょうか。
評論も書くことができたらいいな。


夜はぷちぷちケータイ短歌

1月15日 月間テーマ「カレンダー」

・日めくりが風にめくられめくりめくめくる揺らめくはじまりのとき
(だいたひかるさん選、放送外)

1月22日 月間テーマ「カレンダー」

・カレンダーを最初に発明した人はさぞかし忙しかったのだろう
(だいたひかるさん選、放送外)

1月22日 企画テーマ「メタボ」

・「72→105→80」(助演母) 父のウエスト・サイズ・ストーリー
(加藤英美里さん選、☆放送で)

2月19日 企画テーマ「スパイス」

・黒塗りのトレイに七味がこぼれてる そうか君は震えてたのか
(穂村弘さん選、放送外)

3月4日 企画テーマ「別れ話」

・旅先で別れ話がととのって最寄り駅までふたりで帰る
(だいたひかるさん選、放送外)

3月18日 月間テーマ「先生」

・先生に「わかりません」と言われた日世界の色を塗り直した日
(東直子さん選、放送外)

3月18日 企画テーマ「もらい泣き」

・かなしみの君の欠片をばら撒いた空が泣き止んだらもらい虹
(東直子さん選、放送外)

・うなだれた君を見下ろす電線のすずめがもらい泣きして時雨
(だいたひかるさん選、放送外)


平成23年度NHK全国短歌大会 入選

・注文の品が席へと運ばれて紙ナプキンを本のしおりに

・俯いて考え事をする父は犬を抱(いだ)いているかのようだ

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歌会たかまがはら採用歌

天鈿女聖さんがUstreamで配信している歌会たかまがはらでの採用歌です。
投稿歌の紹介もさることながら、毎回のゲストのトークに興味津々です。

「夜はぷちぷちケータイ短歌」が終了してから投稿をすることは殆どなくなりました。
こちらの番組ではゲストにお手紙を書く気持ちで短歌を送っています。


3月号 お題「卒業」

・先生は卒業式で泣いていた予行演習でも泣いていた
(岡野大嗣さん選)


4月号 お題「休」

・「休」という文字はどこにもありませんこの世で一番忙しい辞書
(ちょろ玉さん選)

・休んだらもう動けない気がしてる環状線の車両の中で
(天鈿女聖さん選)


6月号 お題「親」

・コードレスホンの親機がなくなって子機で電話をできなくなった
(麦太朗さん選)


7月号 お題「花・植物」

・薔薇という漢字に僕は馴れてない僕の書く薔薇は棘が多い
(飯田和馬さん選)


10月号 お題「虫」

・玄関にころがっているカナブンを踏んでしまった四日目にして

・庭先に橙色の虫がいて害虫なのですぐに潰した
(むしたけさん選)


12月号 お題「年」

・またすぐに会えるさという別れから十三年が過ぎていること
(小林ちいさん選)

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おっ

・SFはフグ田サザエのイニシャルで彼女は推理小説が好き
(おっ 題詠blog2010「SF」より)


そういえば「磯野サザエ」じゃなくて、結婚してるから「フグ田サザエ」だよなぁ。へぇ、推理小説が好きだったんだ。公式プロフィールにも書いてあるじゃないか。24歳って、僕よりも若かったのかぁ。

http://www.fujitv.co.jp/b_hp/sazaesan/sazaesan_cast.html

みんなが知っているサザエさん。改めてこう書かれてみると、意外にも知らないことばかりである。お茶の間でお馴染みの存在が、突如として謎めいてくる。

三句目「で」の使い方が巧い。当たり前のように順接と見せかけつつ、意外へ、意外へとジャンプしている。

「おっ」さんに一度だけお会いしたとき、その自選歌に僕は心底笑い転げた。

・いい国を作ろうという公約は守られたのか鎌倉幕府
・それぞれに抱く正義が違うので足を踏みあうヒーローの群れ
・縁側に誰も座りはしないのに全力で咲く母の向日葵

また会いたいな。きっとすぐ会えるさ。そう思ったけれど、今のところお会いしたのは一度きり。ブログも現在は閉鎖されていて、「おっ」さんの作品をまとめて読める場所は、今となってはあのときいただいたプリントのみだ。

・スカートを布団の下に敷いて寝る彼女は夜にアイロンになる
(夜はぷちぷちケータイ短歌 2011年4月17日放送)

夜ぷちが終了した今、「おっ」さんの短歌をこれからどのような場で読むことができるのだろうか。僕はとても楽しみにしているのだけれど。

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ゾッウッゾッ

・印刷機がゾッウッゾッと出してゆく空に根を張るごとき梅の木
(藪内亮輔「海蛇と珊瑚」 2011年角川短歌賞次席作品)


「海蛇と珊瑚」の一聯からは紹介したい歌がたくさんあるが、この一首を選んだ。

藪内さんの作品は描写の丁寧さ、確かさ、その背景にある観念の分厚さが魅力である。描写の丁寧さは冒頭の数首で力強く提示されている。

・月の下に馬頭琴弾く人の絵をめくりぬ空の部分に触れて
・明け烏ふはりと空を降り来たり黒きつばさの裏をさらして

そういう中で垣間見られるユーモアもまた、作者の魅力である。

・数式はあゆむ間にさへ現れてわれを電柱にぶつからせしむ
・くらがりに電話ボックスひとつありすらりと光立ててゐるなり
・コンビニに貰ひし箸についてくるつま楊枝ちさく先尖りゐる

そのふたつが交差するところに、次のような秀歌が生まれる。

・ポケットに冷たく握る硬貨あり百円玉の花は枯れない

紹介歌は丁寧さとは異なるが、ダイナミックでいて緻密な描写が他にはない気がする。ゾッウッゾッは言われてみればなるほど、「空に根を張る」というから根っこの方から印刷されているのであろう。(もしかしたら枝の様子が空に根を張るようであるのかもしれないが、梅の木が逆さに印刷されてゆくダイナミズムとして読みたい。)梅は古木であろう。写真というより水墨画のような重厚さが伝わってくる。

「海蛇と珊瑚」全体としては「死」が主題と読み取るのが自然だろうが、作者としては死を自分に手繰り寄せきれていないように見受けられるのが残念である。少し客観的な立場としての

・おしまひのティッシュペーパー引くときに指は内部の空(うつほ)もひけり

のような歌の方が成功しているように感じる。

最後に作者の好きな蛇の登場する、少し(技巧的に)お洒落な歌を紹介してこの評を終わることにする。

・ときどきに句跨るからこそ歌に蛇(くちなは)がくる花をくはへて

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悲しいだった

思いたたが吉日。早速一首評ブログをスタートです。有名な秀歌を取り上げるより、自分が気になった歌、好きな歌を紹介できればなあと思います。月二回程度を目標に。ケータイ短歌からの紹介が中心になると思いますが、今回はこちらです。


・三越のライオン見つけられなくて悲しいだった 悲しいだった
(平岡直子「みじかい髪も長い髪も炎」 歌壇2012年3月号)

正月にラジオで天皇杯サッカー中継を聞いていた。決定的な瞬間に思えたのだろうか、高まる歓声に続いて実況のアナウンサーが、「ああ、今のはオフサイドだったですね」。

有名な三越のライオン像。見たことはないけれど、当然のごとくその存在は知っている。待ち合わせ場所になるくらいだから、目立つ場所にあるのだろう。それを見つけられなかった。

「悲しいだった」からは、言いようもないやるせなさが伝わってくる。興奮冷めやらぬとき、気持を整理し切れていないときには、文法的におかしな言葉が口を突いて出てしまう。日本語として正しくは「悲しかった」や「残念だった」であるが、これでは既に過去の出来事となっており、落ち着いて振り返っている。「悲しいだった」によって、今まさに悲しい状態にいるという臨場感、加えてそのような境遇にある作中主体が浮かび上がってくるのである。

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さみしいけれど

3月18日 夜はぷちぷちケータイ短歌

月刊テーマ「先生」

・先生に「わかりません」と言われた日世界の色を塗り直した日
(東直子さん選、放送外)

企画テーマ「もらい泣き」

・かなしみの君の欠片をばら撒いた空が泣き止んだらもらい虹
(東直子さん選、放送外)

・うなだれた君を見下ろす電線のすずめがもらい泣きして時雨
(だいたひかるさん選、放送外)


三首も採られたのは初めてかも、と思ったら、これが夜ぷちでの最後の採用となってしまいました。

先生にわかりませんと言われたのは百人一首です。幼稚園のときのこと。先生は何でも知っている存在と思っていたので、ひどくショックを受けたことを覚えています。質問が質問ですから無理もありませんが。

「もらい泣き」の二首は「かなしみの欠片」「もらい虹」「雀の目にも涙」からスタートしたのですが、無理矢理相聞歌に着地したところがあります。東さんに採っていただけたのは嬉しいですが、果たして自分らしい歌なのか、複雑な気持ちもあります。

ケータイ短歌、とうとう終わってしまいました。二年間だけ関わったこの番組からは短歌の楽しさの他にも、とても大切なものをたくさんいただきました。寂しいですが、ちょうど一区切りだなというのも正直なところです。幸運なことに活動の場はできつつあるので、短歌はこれからも続けていきたいです。

ケータイ短歌の備忘録として始めたこのブログ、他に主な投稿先もないので、これからは一首評ブログとして運営していこうかなあと考えています。「たたたん、たたたん、たた短歌」を別の形でお楽しみいただけるようにできればなあと思っています。

Tata

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泣くということ

歌会たかまがはら3月号

・先生は卒業式で泣いていた予行演習でも泣いていた
(岡野大嗣さん選)


ストレートな表現ですが選んでいただけました。内容というより、言い方というところでしょうか。

先生が卒業式で泣くというのはありきたりですが、予行演習でも泣くとなるとただごとではありません。自分はこのようなときに泣けない人なので、悲しいときに涙を流せる人を羨ましく感じるところもあります。

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別れ話

3月4日 夜はぷちぷちケータイ短歌

企画テーマ「別れ話」

・旅先で別れ話がととのって最寄り駅までふたりで帰る
(だいたひかるさん選、放送外)


友人から聞いた体験談です。彼女と旅行して早々にに別れ話になったけれど、予め立てたスケジュールはこなすという珍道中になったそうです。もっと事実に即して(?)、

・長崎で別れ話がととのって新大阪へふたりで帰る

のようにした方が面白いかなあと思いました。

月間テーマの「先生」、とても難しくて悩みっぱなしです。次回は再来週なので、他の方の採用歌も参考にさせてもらってじっくりと考えようと思います。

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相聞か?

2月19日 夜はぷちぷちケータイ短歌

企画テーマ「スパイス」

・黒塗りのトレイに七味がこぼれてる そうか君は震えてたのか
(穂村弘さん選、放送外)


穂村さんに随分久しぶりに採っていただけました。自信のあったもう一首は没でしたので、いつもよく分からなくなります。

こちらは飯田和馬さんのブログ歌会で出した作品の改作です。元々は、

・君もまた震えてたのかトレイには七味唐辛子がこぼれてる

だったのですが、「『七味』とあれば『唐辛子』は重複ではないか」「トレイの黒と七味の鮮やかさの対比という最初の着想を活かしては」というアドバイスを参考に推敲してみました。まだ完全に納得のゆく形ではありませんでしたが、投稿してみました。

それにしても、七味をこぼしただけであれこれ思われるとしたら、まったく油断のならない話です。

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